今年戦後80年を迎えたわが国はこの間に経済的な発展を遂げましたが、その一方で世界的にみても類をみない超少子高齢化が進展し、高齢者だけでなくすべての年代で一人暮らし世帯が増加しています。一人暮らし世帯の中には、非正規雇用で収入が少なく生活に困窮する人、住み込みや寮生活で働いていた人が雇い止めや解雇により住まいと収入を一度に失うなど不安定な暮らしを強いられている人がいます。また一人暮らしだけでなく、母子世帯で子育てをしながらの就労で生活が不安定な人、DV被害によりこれまでの住まいを離れざるを得ない人など、安心して暮らす住まいを確保することが難しい人が少なからずいるのが現状です。
戦後のわが国の住宅政策は、戦災による420万戸の住宅不足を解消するために三本柱として、1950年に住宅金融公庫法(持ち家取得層向けの住宅取得資金融資)、51年に公営住宅法(低所得層向けの公的賃貸住宅供給)、55年に日本住宅公団法(中所得層向けの住宅供給)を制定しました。その中でも持ち家政策は、建設関連産業を活性化する経済対策も兼ねて、もっとも重点がおかれました。低所得層向けの公営住宅は戦後すぐには大量供給されましたが、その後供給数は鈍化し、全住宅数に占める公営住宅戸数の割合は現状で5%程度に過ぎず、低所得層のセーフティネット機能を果たしていません。住宅困窮者が多い都市部では、公営住宅空き住戸の応募倍率が20倍、30倍にもなることが少なくありません。
国は高齢者や障害者をはじめ低所得層など住宅確保要配慮者に対応するため、2007年に住宅セーフティネット法を制定し、08年からのリーマン・ショックによる住宅困窮者の増加が社会問題化したことから17年に大幅な法改正によりその対策を拡充しました。法改正により住宅確保要配慮者の入居を拒まない民間賃貸住宅の登録を推進するとともに、その居住支援にあたる居住支援法人を都道府県知事が認定する制度を設けました。セーフティネット登録住宅数は約90万戸と数自体は増えましたが、その多くは世帯向けの広さ・家賃で低所得層の住宅ニーズとのミスマッチが生じています。
また、一人暮らしの高齢者や障害者の中には生活の見守りや支援がないと安心して住むことができない人もいます。そこで24年に住宅セーフティネット法の再改正が行われ、入居時の支援だけでなく入居中の安否確認、見守り、福祉サービスや相談窓口へのつなぎを行う「居住サポート住宅」が新設されました。25年10月からの施行で、まだ始まったばかりなので今後を注視する必要がありますが、居住サポート住宅の支援の担い手となる居住支援法人のぜい弱な運営基盤が危惧されます。居住支援法人を運営するNPOや社会福祉法人による居住支援が期待されますが、支援対象が増加していく中で、それを支える人や資金の確保が課題になることが考えられます。居住支援を実質化する上では居住支援法人に対する公的な支援の拡充が求められます。
工学部 児玉善郎 教授
※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2025年11月26日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。