世界でも非常に速いスピードで高齢化が進む日本では、1人暮らし認知症高齢者の数も着実に増えている。"認知症"で"1人暮らし"と聞くと、「自宅で暮らせるのだろうか?」と疑問を持つ人も少なくない。統計的に正確に把握するのは難しいが、複数の推計値をもとに概算すると、現在、約100万人の認知症高齢者が1人暮らしをしていると考えられる。
1人暮らし認知症高齢者が直面しやすい生活上の課題は、大きく「健康管理の乱れ」「生命の安全をおびやかしうる危機」「衛生状態の乱れ」「生活を維持する上での経済的危機」「対人関係の不調和」「必要なサービスの利用困難」の六つに整理できる。これらは、認知機能の低下により、日常生活を送るうえで必要な判断や行動が難しくなることをきっかけに起こりやすい。さらに、1人暮らしだからこそ、周囲が気づくまでに時間がかかり、課題が深刻化しやすい側面もある。
しかし、だからといって、すべての1人暮らし認知症高齢者が危うい状況に置かれているわけではない。また、生活上の課題が生じたからといって、ただちに在宅での暮らしが出来なくなる訳ではない。周りの人々の支えを得ながら、さまざまな工夫を重ね、在宅での暮らしを続けている人も多く存在する。
一方で、いずれは在宅が難しくなることも現実的にはある。ただ、最近では、「自宅か施設か」といった場所の問題だけでなく、「どのように暮らすか」に焦点を当てることの重要性が注目されている。たとえ住む場所が変わっても、本人の思いや生活歴を関係者が丁寧に共有し、尊重しながら支援を続ければ、本人の尊厳や希望を反映した暮らしの継続も可能となる。
「認知症になったら何もできなくなる」「ひとりでは生きていけない」といった決めつけではなく、"できないこと"ではなく、"できること"に注目し、必要な支援をつなぎながら、その人らしい暮らしを共に築いていくという姿勢が求められている。そのためには、専門職による支援だけでなく、地域にある資源や人とのつながりを活用する視点が欠かせない。そして何よりも、自分自身の持つ力や思いを大切にし、どのように暮らしたいかを考え、備えていくことが求められる。
誰しも、将来的に認知症になりえる。今は家族やパートナーと暮らしていても、将来的にひとりになる可能性がある。そうした未来を見据えたとき、自分はどこで、どのように暮らしたいのかを今から考えておくことが、将来の安心や希望につながる。自分の希望を家族や友人、地域の人たちに伝えておくことも大切だ。
1人暮らしの認知症高齢者の暮らしを考えることは、私たち一人一人が自らのこれからの暮らしを見つめ直すことにもつながる。認知症になっても、1人暮らしになっても、自分らしく生きるために、今できることを少しずつ考え始めていくことが重要だ。
中島民恵子 福祉経営学部教授
※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2025年8月25日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。