筆者は2025年4月から新たに始まった日本福祉大学工学部にて、木を使った建築の設計、研究、教育に取り組んでいます。木という素材は、古来より人間の暮らしに深く根ざしてきた、最も身近な自然素材の一つといえます。近年では、3次元加工技術、特にCNC(コンピュータ数値制御)ルーターや、3Dプリンターの登場により、従来の手作業とは異なる手法で木材を加工できるようになっています。これにより、手仕事では実現が難しかった精緻な曲線や、複雑な接合が可能となり、木工加工は単なる「削る」「切る」といった作業の延長ではなく、加工のプロセスのものをプログラムする「創作行為」へと進化を遂げています。
さらに、私たちは今、「AI(人工知能)」という全く異なる性質のテクノロジーと共生していかなければならない時代に生きています。一見すると無機質で人工的な存在と捉えられがちなAIと、自然の中で育まれた有機的な素材である木材。この二つが交わる場所に、3次元加工という新たな創造の可能性が広がりつつあります。AIはデザインや加工に関するビッグデータを学習し、美的バランスや機能性を兼ね備えた形状を自動生成することを可能にします。また、木材の種類や繊維の方向、湿度変化による歪みといった自然素材がもつ特有のパラメータについても、AIは予測・最適化できる可能性をもっています。つまり、AIはこれまで職人が培った経験や勘を代替するものではなく、それらを補完し、より高い精度と効率で創作を支援する存在となり得るのです。
木材、3次元加工、そしてAIの融合により、「自然とテクノロジーの対立」といった従来の二項対立を超える、新しい創造の形が生まれつつあります。木のもつ温もりや木目、色味といった個性を大切にしながら、AIと3次元加工によって、効率的かつ持続可能なものづくりが実現可能となります。触れたくなる木の質感と、最先端の技術が生み出す曲線美。その融合が創り出すのは、単なるプロダクトではなく、感性と知性が共存する「体験」そのものです。これら創造のプロセスは、単なる「モノづくり」から、新たな価値を共創する「コトづくり」へと発展していくのではないでしょうか。
この新しい創造のあり方は、建築、インテリア、アート、さらには教育の分野にも新たな風を吹き込んでいます。筆者が所属する日本福祉大学工学部では「AI建築」という科目を設置し、建築、AI、ICTを融合させた教育プログラムを通じて、新たな「人財」の育成に取り組んでいます。木とAI、そして3次元加工。その交差点には、過去と未来、人間と機械、自然と人工をつなぐ、創造の無限の可能性が広がっています。
坂口 大史 工学部准教授
※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2025年5月1日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。