「防災キャンプ」は、自然の中で過ごすことを目的とした体験学習やレクリエーションであるキャンプが、被災時の生活に似ていることから、キャンプの道具、知識、技術などを活用し、被災生活に役立つ体験的な学びを得るための教育手法である。各地でさまざまな取り組みが行われており、多くの実践事例が報告されている。しかし、防災キャンプの教育的効果である、①能動的な姿勢の醸成、②経験、知識の習得による生活の幅の拡張、③コミュニティーの活性化などについてはあまり認識されていないのが現状と言える。以下に3点の教育的効果の解説をする。
①について、防災・減災教育の難しさは、災害の被害を「自分事」と認識し、学びに対する「能動的な姿勢」を醸成することと言える。長期間にわたって大規模自然災害による被害を経験していない地域では「自分が被災者になる想像ができない」ことから、被災を自分事として捉えることが難しく、防災・減災の学びに対して「やらなきゃ」という義務感が生じやすい。防災キャンプには「やらなきゃ」を「やってみたい」に転換する効果がある。例として子どもはもちろん老若男女に人気のプログラムである「火おこし体験」がある。火おこしは直接的に防災・減災につながるものではないが、「やってみたい」という姿勢を生み出すきっかけとなるとともに、火の暖かさ、危険性、汎用性などを知り、被災地での火に関する事例と組み合わせて学ぶことで、防災・減災に対する能動的な姿勢を醸成することができる。
②について、熊本地震における災害関連死の割合は約80%にもおよぶ。能登半島地震では、2024年9月時点で約40%が災害関連死で亡くなっており、この数字は今後も増えることが予想される。災害関連死は肉体的・精神的負担によるストレスが原因となることが多く、ライフラインや住環境などの生活の変化に起因するものも多い。例えば、鍋、飯ごう、パッククッキングなど、複数の方法で炊飯を行うプログラムがある。さまざまな生活方法を知り経験することは、生活の幅を拡張し、被災生活のQOL(Quality of life=生活の質)を維持向上することにつながり、被災生活のストレスを軽減することが期待できる。
③について、被災地では不特定多数が生活する指定避難所よりも、不便でも顔見知りが集まった自主避難所を選ぶ被災者は多い。お互いを知っているコミュニティーが被災生活を乗り越えるための大きな力となっている例である。防災キャンプでの協働体験が、コミュニケーションのきっかけとなったという声は多く、実際に防災キャンプに参加してからあいさつを交わすようになったという事例もあることから、防災キャンプはコミュニティーの活性化の一助になりうる。
近年、頻発化、激甚化する大規模自然災害では、想像を超える被害が発生し、不便な被災生活を送る可能性はどの地域でも起こりうる。被災生活を「なんとか生き残る」のではなく「良く生きる」ために、防災キャンプによる学びの役割は大きい。
※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2024年11月19日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。