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セントレアから世界へ~中部国際空港の役割と取り組み~

学園創立60周年記念式典記念講演会
「セントレアから世界へ~中部国際空港の役割と取り組み~」

講師:
川上 博 氏(中部国際空港株式会社 代表取締役社長)
日時:
2014年6月8日(日)

※所属や肩書は講演当時のものです。

民間経営空港の先駆的存在として、安全かつ効率的な運用を実施

 セントレアの歴史は、今から半世紀前の中部地域の国際拠点空港建設構想に始まります。約30年前には建設促進期成同盟会が結成され、中部空港調査会も発足。1998年に中部国際空港(株)を設立し、2000年に着工。4年半の工期を経て愛知万博があった2005年に開港しました。

 株主構成は民間が50%、国が40%、自治体が10%です。成田や新関西空港は国が100%ですが、セントレアは民間の活力を空港経営に活かしたいという考えでこうした構成になっています。国管理空港である羽田空港の場合、航空管制、税関や入管・検疫はもとより、滑走路やエプロンなどの空港施設の維持管理も国が行っていますが、セントレアでは空港施設は当社が所有し、運営管理を行っています。民間の経営ノウハウを活かしたコスト削減の努力とともに、飲食・物販店や免税店などの商業施設の収益により空港の収支を改善する上下一体の空港経営として、セントレアはその先駆的存在だと自負しています。

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来年10周年を迎える中部国際空港セントレア

 セントレアの空港施設の運営管理の中心的役割を担うのは「COC(セントレアオペレーションセンター)」で24時間365日運用しています。仕事は航空灯火・無線の管理や保安防災業務、飛行場面での安全かつ効率的な運用などが挙げられます。飛行機が空港にアプローチする際に航空灯火が点灯しているか、着陸誘導装置の電波が正常か、滑走路などに障害物がないかの確認は大変重要な任務です。またバードストライクについても大変な労力を費やしています。飛行機のエンジンが鳥を吸い込むと事故につながる危険があるため、バードパトロールを1日5回実施するなど、空港に鳥を寄せ付けないような工夫をしています。

 保安防災業務については、航空機などの事故に備えて空港消防所が、現場に3分以内に駆けつけて消火活動ができる体制を取っています。さまざまな訓練も毎年実施しています。昨年10月には実機やヘリ、消防車、救急車など30台以上が参加した大規模な訓練を行ったほか、地震・津波などの避難訓練やハイジャック対応の訓練なども行いました。また、地震・津波については最悪のケースを想定し、ソフト・ハード面の両方から対策を検討・実施しています。このように関係機関とも連携を取りながら、常に空港の安全・安心を守っています。

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航空機事故を想定した消火・救難訓練の様子

インバウンド需要の拡大を見据え、地域とともに航空ネットワークの充実をめざす

 セントレアの重点取り組みとして、旅客・貨物の航空ネットワークの充実に力を入れています。現在、国際線旅客便は27都市297便あります。路線として近距離の台湾や中国、香港、韓国は維持しなければなりません。また、今後成長する東南アジア地域への路線の充実も必要です。さらに長距離の西海岸やオセアニア、パリなどの路線も復便したいと活動しています。

 その活動を担う営業推進本部には現在約100名が在籍し、路線の誘致・需要開拓を行う航空営業と商業事業に分かれて仕事に取り組んでいます。特に路線の誘致ですが、例えば、どこかの航空会社が新規就航した場合、それはゴールではなくスタートだとよく社内で話しています。いかにしてその路線を安定させるか、そのための需要の開拓が必要です。実際に地元自治体や経済団体、空港会社で構成する中部国際空港利用促進協議会が航空会社などへのトップセールスや、地元企業に出張などでの利用を促進する「フライ・セントレア」活動などを行っています。

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セントレアは航空ネットワークの充実に力を入れている

 昨今は訪日外国人のインバウンド客が急増しています。特に今年の4月は44年ぶりに訪日外国人と出国した日本人の数が逆転しました。さらに今後、アジア太平洋が大きなマーケットになると予想されます。こうした需要の拡大にはLCCが重要な役割を果たしています。現在、東南アジアのLCCのシェアは58%でまさにアジアの需要を牽引しているといっても過言ではありません。「バスに乗れるように飛行機に乗れる」というエアアジアXのコンセプトがそれを表しています。

 こうした状況下では、地域に魅力があれば外国人観光客が訪れます。空港間競争はこれまで地域間競争だといわれてきましたが、日本人旅客争奪から海外旅客争奪へと局面が大きく変わってきています。地域の魅力を海外にPRし、観光客の受入体制を整備していく必要があります。

 そのひとつの取り組み例として、中部北陸9県の広域観光プロジェクト「昇龍道」が挙げられます。中部地域の観光ルートを能登半島を龍の頭に見立て、三重県・伊勢志摩までわたる南北の観光地を龍の姿に重ね、命名されました。「昇龍道」で中部地域の知名度向上につなげ、外国人観光客のリピーターを増やしたいと思います。

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国際貨物の利便性向上により、航空宇宙産業にも寄与さらに愛され、親しまれる空港へ

 2013年度のセントレアの国際貨物取扱量は、対前年比136%と大幅に増えました。またボーイング787型機の部品は三菱重工や川崎重工、富士重工で作られますが、これらは船でセントレア港へ運ばれ、専用機でアメリカに空輸されることから、航空宇宙産業の発展にも一役買っています。

 中部地域の農水産物の輸出も大きな可能性を秘めています。愛知はものづくり王国であると同時に全国6位の農業県でもあります。例えば花きの生産は全国1位で、既に海外へと輸出されています。またシンガポールへ生卵を輸出するプロジェクトもあります。今後もさらなる貨物便の充実のために、「フライ・セントレア・カーゴ」活動を進めます。

 ほかにもセントレアではさまざまなイベントを行い集客力を高めたり、空港内の事業者とともにCS(お客様満足度)向上に努めています。こうしたおもてなしの心、そして安全・安心の取り組みに全力を尽くし、開港10周年を迎える来年以降も「愛され、親しまれる空港」であり続けたいと思っています。

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セントレア盆踊りで賑わうスカイデッキ

写真提供:中部国際空港株式会社

中部国際空港株式会社 代表取締役社長

川上 博

昭和24年生まれ、大阪府出身。昭和47年に現在のトヨタの前身であるトヨタ自動車販売株式会社に入社。平成8年に米国トヨタ自動車株式会社に出向、平成14年にトヨタ自動車株式会社米州本部米州営業部部長に就任。平成15年に常務役員、平成19年に専務取締役を経た後、平成20年に豊田通商株式会社取締役副社長。平成21年より中部国際空港株式会社代表取締役社長。また中部国際空港情報通信株式会社代表取締役社長、中部国際空港旅客サービス株式会社代表取締役社長も兼任。

※この講演録は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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