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日本にいるベトナム人の現状と課題

国際福祉開発学部創立10周年記念事業
「ベトナムと日本の今と未来」
第2部「日本にいるベトナム人の現状と課題」

パネリスト:
グエン・ソン・ランアイン氏、グエン・ホン・クアン氏、神田すみれ氏
司会:
カースティ 祖父江 国際福祉開発学部助教
日時:
2018年11月29日(木)

※所属や肩書は講演当時のものです。

日本にいるベトナム人の現状と課題

カースティ
ここからは、日本で生活している留学生や、技能実習生として働いている方々、一市民として普通に日本で生活しているベトナム人の方々が直面しているいろいろな課題や現状と、これからどうなったらいいのかということについて、3人それぞれの立場からお聞きしたいと思います。
 まずクアンさんは元々、研修生として日本に来て、そこからずっといろいろな学びを重ねて日本の大学院を出られています。その実体験というか、クアンさんの日本での生活の経験や直面した課題などについて教えていただきたいと思います。

1.日本での生活で直面した課題

クアン
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グエン・ホン・クアン氏

私は15年前にハノイ工業大学を卒業した後、日本で3年間研修し、ベトナムに帰国しました。元々経済に興味があったので、帰国後はハノイ国民経済大学に入りました。その後、日系企業に勤めて、トヨタ紡織ベトナムの工場長をしていましたが、子どものために日本に来ました。なぜ日本に来たかというと、日本は団体で仕事や勉強をしているからです。ベトナムは個人でやっていますし、アメリカも個人でやっています。なので、子どものためにも団体の方がいいと思って日本を選びました。
 でも、自分も進学しないと子どもの教育に悪いと思って、日本の大学院で勉強しました。1年半前に大学院を卒業し、今はアセアン協同組合で仕事をしています。
カースティ
ランアイン先生、日本語との出会いも含めて自己紹介を頂けますか。
ランアイン
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グエン・ソン・ランアイン氏

私は、今はハノイ大学日本語学部の副学部長として働いています。私が入学試験を受けたのが23年前です。当時は日本とベトナムの関係が少しずつ緊密になっていたので、長い目で見て日本語を勉強したら将来的に良い仕事ができるのではないかと考え、日本語を選び、大学の入学試験を受けました。そして、日本語学部で4年間勉強しました。
 日本語と日本文化が大好きだったので、3年生になったときにベトナムのテレビ局でNHKの番組を翻訳する仕事をし、ベトナムテレビジョン(VTV)で日本文化に関する番組を放送しました。翻訳者とアナウンサーとして大学で勉強しながら、VTVでアルバイトをしていたほか、ドラマを翻訳した出版物もありました。大学を卒業後、テレビ局から「ぜひうちで働いてください」という誘いもありましたが、当時の本学の学長から「ぜひ大学に残ってください」と頼まれ、ハノイ大学に残って教師になりました。
 結婚して、子どもが3歳のときに国際交流基金の奨学金を得て、国際交流基金と日本の政策研究大学院大学との連携による修士課程に参加し、日本で1年間勉強しました。幸いにも優秀賞をもらい、修士課程を卒業してから1年間、そのプログラムの博士課程に参加できて、また日本に来ました。そのとき、私は一人では日本に行かず、子どもも一緒に4年ほど滞在し、博士課程で学びました。
 クアンさんは研修生、大学院生として日本で滞在し、今は4人の子どもと一緒に滞在していると話していましたが、私の場合は博士論文を執筆しながら、母1人子1人で滞在しました。苦労もかなり多かったのですが、苦労を苦しいことと考えずに、私と子どもにとって人生唯一のチャンスと考え、楽しみながら生活してきました。日本人でもベトナム人でも、母1人で子どもを育てながら博士論文を執筆する人はあまりいません。普通は主人や主人の両親も来て、共に子育てしてくれる場合が多いです。でも、人生のチャンスだと思って自分の仕事や子どもの人生にとって良いことにつながると考えました。4年間子育てをしながら博士論文を執筆した後、やっと卒業し、帰国してからは副学部長に就任しました。
 ですから、4人の子どもと一緒に日本で滞在しているクアンさんの話を聞いて非常に驚きました。子育てをしながら日本で滞在するのはどんな苦労があるのか、どのように問題解決をしているのか、ぜひ聞きたいと思います。
カースティ
神田さんからも、今どういうお仕事をしているかということに触れながら自己紹介をしていただけますか。
神田
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神田すみれ氏

本日は多文化ソーシャルワーカーとご紹介いただきましたけれども、私はライフワークとして、この地域に暮らす外国人の生活のサポートを17~18年ぐらいしています。そのほかに、愛知労働局で企業の外国人雇用アドバイザーや、外国人ハローワークで通訳をしたり、大学の非常勤講師として多文化共生やグローバリゼーションについて教えたりしています。それから、フリーランスで企業等に出向いて通訳もしています。その中で、技能実習生たちの研修の通訳や講師もしています。
カースティ
クアンさんが研修生だったとき、あるいはクアンさんが現在日本に来ているベトナム人の技能実習生を見て、生活の中でどんな課題に直面したでしょうか。
クアン
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まず、日本語が分からないことが問題になりました。それは、ベトナムで勉強した日本語が足りていなかったことが原因の一つです。仕事も忙しかったので、なかなか勉強する時間がなかったのですが、出勤するとき、帰るとき、寝る前、起きてすぐの4段階に分けて5分ずつ勉強し、思い出せない言葉があればすぐに辞書で調べて思い出し、繰り返して勉強しました。大体2年ぐらい続けた結果、日本語が上達しました。
 研修生の期間が終わる頃、最初はN1もいけると思ったのですが、勉強の仕方に自信が持てず、N2を受けて合格しました。ベトナムに戻った後は仕事が忙しくて勉強はできなかったのですが、N1がないと大学に入れないので、将来のために計画を立てて勉強し、N1を取りました。そのような方法で日本語の課題を解決できました。
 生活の方では、日本人が「いいよ」と言っても良くなかったりすることがあるので、その判断が非常に難しかったです。英語だとイエスとノーしかありませんが、日本語には曖昧な言葉がたくさんあります。ですから、日本では人のことを考えればいいと思いました。それから、日本文化になじまないといけないので、私は能楽部に入って日本のことを身に付けました。
カースティ
日本語は独学ですか。
クアン
当時は研修生制度だったので、組合団体も受け入れ先もフォローアップしてくれず、ほとんど自分で動かなければなりませんでした。
カースティ
今は、日本に来る前に日本語の研修も少しはあるのですよね。
クアン
そうですね。日本に来る前にN4レベルを習得させて、3年間日本にいる間に最低でもN3に合格するように約束させています。それは本人のためであり、実習生たちは必死に頑張っています。
カースティ
ランアイン先生は日本に留学する学生をたくさん見ていると思いますが、学生たちは日本に来てどういう課題に直面しますか。
ランアイン
最初の段階はカルチャーショックがあったり、日本人と話しても分からないことが多いので、積極的にもっと勉強しなければなりません。そして、日本語をアウトプットするためにはまずインプットが必要です。つまり、日本人が何を書いて、何を話しているのかが分からなければなりません。
 それから、やりとりも重要です。日本人と友達になったり、日本人と積極的に会話したら、いろいろなアイデアが出て問題を解決できると思います。また、日本にベトナム人が多く来ていますから、日本の環境においてベトナム人のコミュニティをつくることも重要だと思います。
 日本に来ているベトナム人の研修生やエンジニアたちは、必ず自分の家族を連れてきたいと思っています。そうでないと、寂しい生活になるし、子どものことを心配する人も多いです。しかし、子どもの日本語教育の問題にぶつかることが多いです。それに関する経験を聞きたいです。
カースティ
いろいろな側面から問題にぶつかっているのは確かだと思います。外国人が増えつつあり、対応がだいぶ遅れてしまっている気がしなくもありません。日本では外国人受け入れ拡大と毎日いわれていますが、日本語教育に関わる者として、受け入れ態勢をどう整えるかというのは非常に大きな課題だと思います。
 神田さんは、愛知県にいるベトナム人といろいろな側面で接していると思いますが、このような課題に対して何かコメントはありますか。
神田
外国人の皆さんは日本語を一生懸命勉強しているのですが、それに対して日本人は何ができるかということです。例えば方言を使わないようにしたり、「やさしい日本語」で話をしたりすることを、今までは恐らくボランティアや日本語教師など少数の人たちが担ってきたと思うのです。しかし、これから外国人がどんどん増えるときに、地域の人たちが「やさしい日本語」を使ったり、方言を使わないように配慮したりすることができるようになることが大切だと思いました。
 そして、外国で子育てをするのはとても大変だと思います。そのときに、子育てに限らず、相談できる人がいることがとても大事だと思います。少数の人たちだけで担っていたのでは間に合わないので、できるだけ多くの人たちが外国人と信頼関係をつくり、相談できる選択肢が増えることはとても重要です。
 企業内でメンターを用意することも大切ですし、社長や役職者には特に外国人に配慮してもらって、直接相談できる機会をつくることも大切だと思います。そうして問題が小さいうちに相談できることで大きな問題にならないのではないかと思いました。

2.コミュニケーションの重要性

カースティ
いろいろな意味でコミュニケーションが大切ですよね。日本人と外国人というふうに一線を引いて外国人は外国人で固まって日本人は日本人で固まると、日本語能力だけではなく、解決できないいろいろな問題がそのまま残ってしまいます。
 クアンさんは研修生生活を終えても勉強して、良いキャリアにつなげることができたのですが、技能実習制度自体はベトナム人が日本に来て何らかの職を手に付けることが目的です。ですから、将来のキャリアにつなげるためには日本語もかなり大切ではないかと思うのですが、技能実習生で日本語能力を習得した人とできなかった人のキャリアの差は大きいと思いますか。
クアン
問題は二つあります。一つは日本に来てからの問題です。日本に来て日本語ができないままだとコミュニケーションができないので、何の技術も覚えられません。なので、日本語の影響はかなり大きいです。日系企業に勤めたかったら、日本語を覚えなくてはいけません。
 私は早くしゃべったり考えたりするために、日本人とのけんかで勉強しました。けんかをするときは早くしゃべらないと相手に負けてしまうからです。変なけんかの仕方ではなく、きちんと物事を考えて解決するようにけんかをしました。
カースティ
それも秘訣の一つかもしれません。
 ランアイン先生は、学生を見ていて日本語ができないよりはできた方が良いキャリアにつながると感じた経験はありますか。
ランアイン
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日本語がうまくできることによって良い仕事につながります。最近、日本にある日系企業がベトナム人のエンジニアや研修生を多く受け入れていますが、会社がエンジニアたちの日本語をきちんとチェックしています。なぜなら、日本語でうまくコミュニケーションできないと、仕事に関するトラブルにつながるからです。
 今はグローバル時代ですから、日本語だけでなく英語も必ず自分の意志で勉強しなければなりません。英語と日本語の両方ができたら、将来出世できますし、良い仕事ができます。
 クアンさんは、けんかを通して日本語が上達できると話していましたが、われわれの言語教育の中ではケース活動に当たります。日本語の文法や語彙を一生懸命教えるだけでなく、教室で実践的な場を再現して日本語を教える方法もあります。
 留学生の皆さんはアルバイトをしながら勉強しているので、時には疲れてしまったりして勉強したくても勉強できない場合も多いです。だから、将来どういう仕事をしたいかという目標をきちんと設定して、毎日の生活時間をうまく段取りできるようになればうまく勉強できると思います。しかし、指導されないとベトナム人留学生も分からないので、大学の役割は大きいと思います。
カースティ
日本に来る子どもたちに関する課題についてはどうでしょう。
神田
ベトナム人に限ったことではないと思うのですが、教員や保育士、地域の人たちがどのように親御さんとコミュニケーションを取れるか、どのようにして子どもたちをサポートできるかがとても重要だと思います。先生や専門家だけでは支え切れないぐらいになっているので、地域の人たちを巻き込むことが必要です。ベトナム人のお父さん、お母さんが他の子の親と話ができない状況がよくあるので、間に入っていって紹介してあげたり、友達になるきっかけづくりを周りの人たちができればと思います。
 キャリアに関しては、日本の社会のことを分かっている人に相談できる外国人がキャリアアップしているという調査結果があります。なので、信頼できる日本人のメンターがいることも大事なことだと思います。
 それから、アルバイトの経験の中で方言が出てきたり、話のつじつまが合っているかどうか分からないような話を聞いて、それに対して返せたりすることは、一つの大きな学びの場でもあると思うので、そうしたバイト先でのコミュニケーションも後々のキャリアに大きく関わると思います。

3.日本に期待すること

カースティ
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カースティ 祖父江 助教

日本とベトナムは、いろいろな意味でどんどんつながりが深くなると思うのですが、日本に期待することはありますか。
ランアイン
ベトナムでは、外国に留学したい人たちが非常に増えています。中でも日本に留学させたいと親たちが考える理由は、日本の厳しい環境で勉強させればきっと自分の子どもたちが成長するからです。ですから、これから日本に留学させたい家族はまだ増えていくと思います。
 ベトナム人は、日本に留学すれば帰国後にベトナム経済に貢献できると考えています。ですから、ベトナム企業がもっと多くのベトナム人を日本に派遣できれば、ベトナムの経済発展にもっと貢献できるし、日本とベトナムの関係を緊密に発展させられると考えるベトナム人も多いです。日本で働くベトナム人の日本語教育や生活に関する課題は多いのですが、やはりベトナム人は他者との対話を通して日本語が成長することが重要であり、日系企業による支援によって成長できる部分も大きいのではないかと思います。

登壇者プロフィール

ハノイ大学日本語学部 副学部長

グエン・ソン・ランアイン

アセアン協同組合 職員

グエン・ホン・クアン

多文化ソーシャルワーカー

神田すみれ

カースティ 祖父江 国際福祉開発学部助教

※この講演録は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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