身近な話題が「ふくし」につながるWebマガジン

ストレスチェック制度

従業員の働きがい高める

 経営者にとって、従業員が生き生きと働き、成果をあげているかは非常に重要な課題ではないでしょうか。大企業では、従業員満足度アンケートなどを定期的に実施し、働きがいをモニタリングするケースが見られます。一方、中小企業では、調査にかかる手間やコストを考え、実施をためらうことが少なくありません。そこで私は、「ストレスチェック制度」を活用することを提案したいと思います。

 ストレスチェック制度は、労働安全衛生法に基づき、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした仕組みです。従業員に対してストレスや健康状態に関する定期的なアンケート調査を行い、必要に応じて医師の面接指導を促します。この制度は2015年(平成27)に施行され、従業員数50人以上の事業所では実施が義務化されています。さらに従業員数50人未満の事業所への適用も検討されています。

 ストレスチェック制度には、大きく2つの目的があります。1つ目は、ストレスレベルが高い従業員に対して早期に支援を提供し健康を守ることです。2つ目は、「集団分析」を通じて職場環境を改善することです。私は、この集団分析が従業員の働きがいを高める重要な鍵になると考えています。

 集団分析では、職場ごとにデータを集計し、特徴や課題を明らかにします。例えば、特定の部署でコミュニケーション不足が見られる場合には、定期的なチームミーティングの導入や、上司と部下の対話の機会を増やすことが考えられます。こうした環境改善は、ストレス軽減だけでなく、従業員の働きやすさや意欲の向上にもつながります。

 私のゼミでは、協力いただいた企業から匿名化されたストレスチェック結果を提供いただき、学生たちと集団分析を実施しました。学生たちは職場の業務内容を知らない中でデータと格闘しつつ、職場ごとの特徴や課題を導き出しました。その結果、企業担当者から「実態を的確に反映している」との評価をいただくことができました。このように、ストレスチェックの結果は職場の現状を客観的に映し出す「従業員の声」として活用できるのです。

 集団分析を通じて従業員の課題を把握することで、「自分たちの声が届いている」という安心感を従業員に与えることができます。この心理的安全性が確保されると、従業員は率直に意見を出しやすくなり、改善策を進めるための協力関係が生まれやすくなります。また、職場で「自分が尊重されている」と感じられることは、長期的なモチベーションの維持にも寄与します。

 ストレスチェックは確かに手間のかかる業務かもしれません。しかし、その活用次第で職場の働きがいを高める有効な施策に変えることができます。集団分析は、単にリスクの早期発見にとどまらず、職場全体のモチベーション向上にも貢献できる重要な手段です。多くの事業所でストレスチェック制度が活用され、職場環境の改善が進むことで、従業員がより生き生きと働ける職場が増えることを願っています。

takamura_hideshi.jpg

経済学部 藤井英彦准教授

藤井英彦 経済学部准教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2025年1月14日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

pagetop