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海部歴史研究会の取組み

地域共通の価値を発見する

 自治体を超えた地域間連携が進んでいる。住民の生活に欠かせない消防署・ゴミ焼却場などの公共施設を効率的に運営することで、サービスの向上につながるという発想である。近年は地域共通の価値を生み出す発想で自治体の広域連携が行われようとしている。その事例として海部歴史研究会の取組みを紹介したい。

 この研究会は愛知県海部地域の津島市・愛西市・あま市、弥冨市・大治町・蟹江町・飛島村の七つの市町村の文化財行政に携わる担当者が、海部地域の歴史文化・自然史などの研究促進を目的に組織した研究会である。活動は主に3点である。①歴史講演会の開催、②情報誌「あまつしま」の発行、③地域共通テーマを取り上げた出版物の発行である。

 会の発足のきっかけは、各自治体で歴史講演会を開催してもなかなか集客できず、海部地方全体を取り上げたテーマを掲げ、近隣市町村に呼びかけたところ、多くの参加者が集まった。そこで、各自治体が「歴史」をテーマにした広域組織を作る方向で動いた。講演会は1991年からはじまり、今年で27回を迎えた。毎回百人を超える参加者が集い、多いときには三百人を超える。

 季刊『あまつしま』は各自治体の担当者が調べたことを、わかりやすい読み物として掲載している。巻末に後援会・イベントなどの情報が示される。自治体発行の広報誌ではその自治体の住民以外には伝わりにくい。その点『あまつしま』は自治体の枠を超えた情報誌としての役割を果たしている。

 各自治体の担当者は月に1度の会議で、講演会の企画を話し合ったり、調査・研究の発表を行っている。そのなかで地域共通のテーマが浮かびあがる。60年に1度の御鍬祭や伊勢湾台風55年を契機とした企画などである。2007年は御鍬祭の年であった。前回のことを知っている人は少なく、その時の資料も伊勢湾台風で焼失したところが多かった。祭りの方法がわからず、祭りをあきらめかけていた地区もあったが、会のメンバー各自が調査をし、成果を持ち寄ることで、地域の共通性の発見につながり、御鍬祭が開催できた。研究会の活動が地域文化の伝承に寄与している。こうした取り組みが周りの理解を深め、会の信頼につながった。

 各自治体によって規模も違えば、文化財に対する向き合い方もそれぞれである。海部歴史研究会は各自治体ができることを行い、無理な強制力を働かせないところがよい点である。また、各自治体で考古学・文献史学・民俗学などの専門知識を持った人たちすべてを採用することは困難である。海部歴史研究会は、自治体に所属する専門知識を持った人たちが互いに協力し合い、地域の共通価値を発見し後世に残していく、新しい広域連携の形といえる。

曲田 浩和 経済学部教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2016年10月13日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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