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自分の身体と向き合って健康になろう!

文化講演会
「自分の身体と向き合って健康になろう!」

講師:
山本 和恵 スポーツ科学部助教
日時:
2017年9月23日(土)

※所属や肩書は講演当時のものです。

1.体内リズム

私は今年から、日本福祉大でスポーツ栄養学を担当しています。今日は、栄養のことを中心に、健康になるためのポイントについてお話しします。

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 人間の体内にはサーカディアン・リズムというものがあり、体温、血圧、食べる、寝る、動くといった行動に24~25時間を周期とするリズムがあります。これには自律神経がほぼ関わっています。自律神経は交感神経と副交感神経からなり、このバランスが取れていないと体調不良または、病気になってしまいます。

 交感神経と副交感神経は、朝と夜で分泌量が異なります。朝は交感神経が優位になり、副交感神経の働きは低下します。朝は食事をきっかけに体温を上げ、消化活動や便を促すので、食事がとても大切です。そして、体内リズムにスイッチを入れるために、光を浴びることも大事です。

 視床下部にある視交叉上核が体内リズムの親時計の役目を果たし、ここには時計遺伝子が存在することが分かっています。また、視床下部には自律機能のほか、下垂体ホルモンを調整する機能があります。下垂体は成長ホルモンと副腎皮質刺激ホルモンを分泌するので、視床下部がきちんと動いていれば下垂体も調整してくれるため、成長や疲労回復にも大いに関係します。また、脳から出る副腎皮質ホルモンは摂食リズムと深い関係があり、消化器官の働きともつながっています。脳や内臓、食事のきっかけの全てがリズムを持っているということです。

 体内時計は、BMAL1(ビーマルワン)とCLOCK(クロック)というタンパク質によって指令され、Per(ピリオド)とCry(クライ)というタンパク質によって抑制されます。中でもBMAL1は細胞に脂肪をため込む性質を持っていて、多く分泌される夜間は誰もが脂肪をため込むことになります。

 血圧や血糖値にもリズムがあり、血圧は起床後1時間以内が1日の最大なので、血圧が高めの方の起き抜けのウオーキングは良くありません。血糖値は夜8時以降に高くなる傾向があるので、夜間に甘い物やお酒は控えた方がいいでしょう。

 血糖値は、生命維持のため一定に保とうとする働きがあり、ずっと食べないでいると脳の機能が低下します。脳にとって糖は主なエネルギー源なので、しっかり摂らなければなりません。

2.満腹中枢・摂食中枢

 おなかがすくと、胃からグレリンというホルモンが分泌され、食事を摂ろうという気持ちを起こさせます。一方、食事を摂ると満腹中枢が働き、脂肪細胞内のレプチンが視床下部に刺激を与え、摂食をやめさせます。同時にエネルギー消費が上がるので、きちんとリズムを取っていれば、それほど体重が増えることはありません。しかし、誤ったダイエットで、おなかがすいているのに食べないでいると、エネルギー消費もないために基礎代謝が低くなり、若々しさも衰えます。ですから、食べた方がいいのです。

 グレリンと成長ホルモンは大いに関係していて、空腹時はグレリンが増え、視床下部を経て下垂体に刺激を与え、成長ホルモンが分泌されます。つまり、成長期のお子さんが、やたらお腹が空いたというのは、成長ホルモンが分泌されている証拠ですね。お腹が空いた時に食べた方が、成長ホルモンの働きが大きくなります。

 グレリンは睡眠が短くなると分泌量が増え、ストレスを感じやすくし、食欲を増進して暴飲暴食の引き金になります。また、グレリンは脂肪蓄積作用を持つので、睡眠時間が短く夜中に飲食をしていると、太る一方です。グレリンの分泌量は朝9時が最も低下するので、午前中の方が脂肪の蓄積は少ないです。

 一方、レプチンは脂肪細胞が大きくなるとレプチン量も多くなりますが、視床下部での機能が正常に働かず、肥満になりやすくなります。つまり、太ったことをきっかけに食欲が抑制できなくなり、さらにどんどん太っていくのです。レプチンも睡眠時間と関係があり、グレリンと同じく、しっかり寝た方が作用も大きいので、食欲をしっかりコントロールしてくれます。

 レプチンの受容体は、体脂肪が多いほど鈍くなることが分かっており、太ったからといって急激に運動すると、体脂肪は減りますが、受容体がまだ正常ではないため、痩せた当初はどうしても食欲を抑え切れず、リバウンドにつながります。リバウンドを避けるためにも、1ヶ月に1kgずつ減量することがおすすめです。

 本来、節食をやめさせる働きのあるレプチンが、肥満の場合は働きが弱くなり、食欲を抑制できなくするのはなぜか分かっていなかったのですが、基礎生物学研究所の新谷准教授らのグループが2017年9月14日、Scientific Reportsでオンライン掲載されました。この研究により、脳細胞内にある酵素PTPRJがレプチン受容体の働きを抑制していることが分かりました。脂肪が増えると、PTPRJが細胞内に増え、レプチン受容体の働きを抑えて、食欲を抑えにくくしていたのです。

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 人は食べ過ぎると、胃の周りの血管や神経が圧迫され、心臓や肺まで大きな負担をかけるので、食べ過ぎは良くありません。胃の中では、満腹になったらガストリンが分泌され、胃酸を出す指令が出ます。感染症の原因となる細菌は胃酸で殺傷されるので、胃酸の分泌が少ない人や子ども、高齢者は、発症しやすくなります。ですから、胃が丈夫な人ほど元気だといわれます。たくさん食べると、胃は固形物を小腸になかなか送り込むことができないので、大きな負担がかかります。胃に負担をかけないためには、まずよくかんで、胃の働きを軽減することも大事です。

 おさらいしますと、睡眠時間が短い人ほどグレリンやレプチンにも作用してしまうので、過食を招きやすくなります。さらに脂肪蓄積作用も強くなるため、しっかり5時間以上は寝ましょう。

3.ストレス

 ストレスとは、体外からのいろいろな有害因に対して体内に生じた傷害と、それに対する防御反応のことをいいます。有害因としては気温、緊張、不安、我慢などが挙げられます。

 ストレスが長く続いてしまうと、交感神経が優位に立ちます。このとき体は緊張しているので、血管が収縮し、血圧が高まり、口が渇きます。そして筋肉が収縮し、心拍数は高まり、唾液の分泌を抑制し、瞳孔は大きくなります。これは外敵から身を守るためにとても必要なことです。

 しかし、ストレスが解消されない場合、ホルモン環境が変化し、副腎からステロイドホルモンが過剰に分泌されるなどして、アンバランスな状態が生まれます。逆に、リラックスした状態になると、副交感神経が優位に立ちます。瞳孔は小さくなり、胃液や唾液の分泌が高まり、血管が拡張して、気分も楽になります。

 また、副交感神経は、腸を動かして栄養を吸収しやすくします。つまり、食事をするときにリラックスしていなければ、栄養の吸収が滞ってしまうので、おなかが痛くなります。食事が乱れたり、夜遅くまで起きていたりすると、生体リズムも狂うため、便秘になりやすく、生活習慣病にも陥りやすくなります。

 ですから、副交感神経を優位に立たせることはとても重要です。高齢者は交感神経がだんだん優位に立って、副交感神経がなかなか優位に立てない状態が起きるので、年齢とともに副交感神経を高めることが大事です。そのためには、ストレスを解消する運動がいいでしょう。ただ、興奮するような運動をしてしまうと、副交感神経ではなく、闘争心の方が強くなるので気を付けましょう。

 疲れている時や高齢者にとって一番良い運動は、ストレッチです。息を長く吐くストレッチは、副交感神経を優位に立たせてくれます。ストレスのある方は、1日1回の深呼吸を行うといいでしょう。

4.適切な食事量、質の良い食事

肥満度を示す指標としてはBMI(body mass index:体格指数)があります。体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))で計算され、適正値は18.5~25(kg/m²)です。この指標では、体脂肪が高いか低いかは考慮されていません。健康を考えると、筋肉がしっかりあった上で体脂肪が程よくついていることが1番よい健康体だと思います。

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 食事の内容としては、タンパク質系の肉・魚を1食に必ず食べなければなりません。麺類やご飯、パンも、脳に必要な糖を含むので摂った方がいいです。世界的にはがん予防のために野菜とフルーツを食べることが推奨されています。フルーツは太るイメージが強いですが、適性の量を食べた方がいいです。特にスポーツ選手は必須です。それから、緑の濃い野菜を1食に必ず一つは使ってください。野菜に含まれるクロムという栄養素は、細胞中のエネルギーを生み出す上でとても重要です。

 人は年を取るにつれて基礎代謝が減っていくので、エネルギーの必要量も減ります。20代から70代まで身体活動がさほど変わらず、体重が65kgをキープした人がいたとして、20代は2340kcal摂ってもよかったのですが、40代では2174kcal、70代では2096kcalに抑えないと太ってしまいます。このことを頭に入れておきながら日々の運動や食事で調節をしていくと、それほど太ることはありません。

 ご飯の量は、1食の半分ぐらいのエネルギー量で摂るのが理想です。例えば20代女性の学生は、1食の基準量が567kcalなので、300kcal弱となり、小盛りくらいがちょうどです。このように、エネルギーと量を見合わせて考えるといいでしょう。野菜は、両手合わせて3杯分といわれています。それくらい摂らなければ、1日に必要なビタミン、ミネラルが不足します。つまり、本人にとって必要なエネルギー量と栄養素を過不足なく含んだ食事が、バランスの良い食事になります。食事は個人に合った分量で、主食、主菜、副菜、汁もの(副々菜)、果物、乳製品をそろえていれば、各栄養素がいろいろと入ってきます。ちなみに、果物、乳製品は、一般の方は1日1回でよいですが、スポーツ選手では毎食食べた方がよいです。

<副菜をどの皿にも入れる>

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 強化指定選手や全日本選手が練習している国立スポーツ科学センター(JISS)にはレストランがあるのですが、そこで出している弁当は、メインのお肉は少なく見えますが、エビやシーチキン、ハムなどがいろいろなところに入っていて、野菜も豊富です。野菜だけでは選手も食べにくいので、タンパク質系で味のあるものを混ぜて、食べてもらう工夫をしています。

 夕食を摂る時間を調べてみると、遅く摂った人の方が内臓脂肪が多くつき、健康上の危険性が高くなります。また、年齢が上がっていくとさらに内臓脂肪がつきやすいとされています。

 それから、朝食を食べないとPGC-1αという遺伝子が不活性になり、筋肉が減少します。体力測定(シャトルラン)の結果を見ると、朝ご飯を欠食する子の方が悪く、筋力がきちんとついていないからこのような結果になったと考えられます。

 食事誘発性熱産生のエネルギー発生量をみると、朝食を食べる群と食べない群、高脂肪食の群と米を食べる群で分けて比較すると、朝食をきちんと摂り、米をしっかり食べている人の方が食べ物のエネルギー発生量が高かったです。ですから、ご飯をある程度食べていればそれほど太りません。食べる順番と血糖値の相関を見ると、野菜・肉・ご飯の順で食べた方がごはん、肉、野菜で食べた順よりも血糖値が低くなっているので、食べる順番も考えて食事を摂った方がいいでしょう。

5.食事のタイミング

 スポーツ選手は、運動と食事のタイミングがとても大事です。グリコーゲンというエネルギー源を蓄えるために、ご飯・肉・野菜の順で食べた方が早く回復しやすいともいわれています。グリコーゲンは糖質なので、ご飯やフルーツをしっかり食べることで回復が早くなります。

 それから、運動した後に成長ホルモンが分泌されやすくなりますし、睡眠も最初のノンレム睡眠が強い方が成長ホルモンはしっかりと分泌されます。つまり、しっかり運動して、しっかり眠れば、回復が早く進むのです。

 成長ホルモンと関係が深い食品は、アルギニンというアミノ酸を多く含んだ食品で、鶏肉、大豆、納豆、牛乳、ゴマ、エビ、ナッツ類、クロマグロなどです。クロマグロは、たんぱく質を多く含み、脳によいDHA、EPAがとれるので、私は推奨しています。これらを食べることによって成長ホルモンの分泌が促され、免疫反応の活性化が起こります。すると、けがや疲労の早期回復につながります。

 筋肉は、収縮運動をすることでエネルギーを発生します。使い過ぎると痛みが出てきますが、乳酸がエネルギーに変わってくれるので回復することができます。ですから、乳酸が疲労物質だとたたかれる時代は終わっています。疲労回復のために、乳酸を早くエネルギーに変えるのが野菜や肉に含まれるビタミンなのです。

 長時間同じ姿勢でいると筋肉疲労が生じ、肩凝りや腰痛につながります。筋肉を動かすにはリンパ管の役割がとても重要で、筋肉痛や筋肉が凝っていると思ったときは、筋肉をほぐしてあげることはもちろんですが、膝裏などのリンパをさすってあげることも大事です。年を重ねるうちに、骨盤やその内側の筋肉が弱り、姿勢も悪くなってきて、いろいろなところが引っ張られ、腰痛や肩凝りにつながります。ですから、長時間同じ姿勢を続けず、時折筋トレやストレッチをして、身体を動かすことが大切です。

 このように、しっかり動いて、よく食べて、よく眠り、ホルモンバランスをなるべく崩さないように生活することで、健康な身体を維持できるのではないかと思います。

山本 和恵 スポーツ科学部助教

※この講演録は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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