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「人の気をくみて」のおもてなし

外国人観光客のリピーター拡大に

 5月26、27日に伊勢志摩サミットが開催されます。伊勢・志摩の人たちは各国の要人を迎え、最高のおもてなしをと、思案しているところでしょう。

 古くより伊勢は、訪れる人々に対するもてなしの意識が高いところです。伊勢神宮の内宮・外宮にはそれぞれ宇治・山田の門前町があり、気候風土の異なる全国から訪れたさまざまな人たちでにぎわいました。井原西鶴は「日本永代蔵」のなかで、「人の気をくみて商いの上手はこの国なり」と述べています。今から約300年前にはすでに伊勢の人たちは人の気持ちをくみ取って商売を展開していました。

 人々の足を伊勢へ向かわせるのに大きな役割を果たしたのは、「伊勢御師」とよばれる神職です。御師は伊勢信仰の布教者として全国を回りました。それぞれの御師は「檀那場」といわれる特定の布教地域を持ち、毎年の暮には御札や伊勢暦などを配り歩きました。

 「一生に一度は訪れたいお伊勢さん」といわれ、旅をすることが容易ではなかった時代に、御師は地域の人々のために伊勢神宮参拝ツアーを計画しました。御師の屋敷が宿泊場所となり、多いところでは一度に千人を超える参拝者を御師はもてなしました。伊勢・志摩でとれた海産物をふるまい、魚の切り身をゆで、熱したこてで焼き跡を付け、焼魚に見立てます。今の時代では「ごまかし」と言われるでしょうが、当時はひと手間かけたおもてなしそのものです。

 伊勢への参拝がひときわ増えたのが、60年に一度のお蔭参りの年でした。天保元年(1830年)は、400万人を超える参拝者が伊勢を訪れたともいわれています。参拝者は旅支度もせず、ヒシャクを持ってとにかく伊勢を目指しました。街道筋の人たちは、参拝者に対してヒシャクに食べ物などを入れて接待しました。

 伊勢には多くの餅菓子があります。今は土産物として持ち帰ることができますが、昔は伊勢に行かないと食べることができません。伊勢で食べた餅菓子のおいしさを土産話で聞いた人々は、一度は伊勢に行ってみたいと思うでしょう。

 サービスを提供する伊勢の人々は、良い思い出を作ってもらおうと、知恵や工夫を凝らします。それが次につながり、伝統として受け継がれています。

 2015年に日本を訪れた外国人観光客は約2千万人でした。前年度の47%増です。10年前は600万人ほどでした。その時から比べると3倍以上です。

 ただし、日本にもう一度行きたいと思うのか、日本に訪れた人々から土産話を聞き一度は行ってみたいと思うのかは、これからといったところでしょうか。外国人観光客のリピーターを増やすには、いつも変わらずの高水準のサービスに加えて、国柄や気質を考えた「人の気をくみて」の相手に合わせたおもてなしが大切です。

曲田 浩和 経済学部教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2016年5月24日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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