水泳を教えることができる教員の不足、学校プールの老朽化、スポーツクラブへの水泳授業委託など、水泳に関するニュースが最近話題となっている。水泳は、学校教育において、泳ぐことができる技術を養うこと、水の中での運動の楽しさを学習することなどを目的として、学校体育教育の一つとして取り扱われてきたが、その様相は時代とともに変化してきている。
水泳とは、どのようなスポーツであるのか。水の中で実施するというだけで、非常に特異的なスポーツであり、その特徴をしっかりと把握することは実施者や指導者にとって重要である。水平姿勢をとって、その姿勢のまま前方に進んでいく。もし泳ぐ人を初めて目にする人がいれば、目を疑いたくなるような様式での移動だと感じるであろう。
水泳にとって最も基礎的な動作は、バタ足である。両足を交互に上下に動かす動作である。このバタ足がうまくなければ、楽に長い距離を泳ぐことができない。誰もが簡単にできると思うかもわからない、この動作は、意外と奥が深い。太もも、下腿、足を同時に動かすのではなく、太ももから足へと順番に関節を動かし、ムチ動作のように、しならせながら、先端にある足の速度を大きくすることが必要である。両脚を交互に動かすが、早く泳ぐ場合は、手を1掻きする間に、6回足を動かす。だいたい1秒間に6回ほど脚を上下させることになる。
また、陸上とは違い、水中動作なので、浮力が作用し、無重力に近い状況で、伏臥位で水平方向に移動する。バタ足、という一見簡単そうな動作ではあるが、この説明で普段の行動とかけ離れた動作であることを理解いただけたのではないか。
そもそも、水泳中にバタ足は前に進むためにその動作が実施されているのかといえば、答えはノーである。水泳中に、泳者は水平姿勢を保つことができない。浮力の中心点と、重力の中心点が、若干ずれており、その影響で、脚が下方に回転する力が作用する。つまり、水平姿勢をとった状態で浮いてしばらくすると、水平姿勢がくずれ、脚が下方に下がってくる。それを防ぐために、泳者はキックを打つ。キックの主な役割は、泳者の水平姿勢をキープすることである。水平姿勢を保つことができれば、抵抗が少ない姿勢で楽に泳ぐことができる。
このようなメカニズムを知ったうえで一度、水泳、そしてバタ足を実施していただきたい。水泳が、より奥深い魅力あるスポーツであることを感じることができるかもしれない。指導者もこのメカニズムを理解して指導に当たれば、効率よく指導することができる。水泳運動は、身体への負担が少なく、高齢者の運動としても適切であり、水中では心がリフレッシュできる効果もある。水泳は、自身の身を守るためだけでなく、自身の人生を豊かにもしてくれる。多くのコストがかかるかもしれないが、多くの人に、水泳を楽しく実施できる環境づくりが求められているのではないか。
松田 有司 スポーツ科学部准教授
※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2025年5月26日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。