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私の児童福祉実践・教育から伝えたいもの

研究紹介
「私の児童福祉実践・教育から伝えたいもの」

渡邊 忍 社会福祉学部教授

※所属や肩書は発行当時のものです。

はじめに

 私は本学の同窓生である。1976年3月、当時杁中にあった本学を卒業後、名古屋市職員(行政職)となった。名古屋市入職後は、3 つの職場を経験し、2012年4月から社会福祉学部の教員となった。ここでは、私のこれまでの児童福祉実践と教員となり取り組んでいる児童福祉実践・教育を紹介したい。皆さんには変わり続ける児童福祉(社会福祉)での実践のあり方、大学教育(社会福祉)のあり方、キャリア形成のあり方、など考えていただくことができればと思っている。

私の学びと児童福祉実践から

 私は学部時代、「貧困問題研究会(サークル)」に4年間所属し、経済学、社会政策・社会事業、社会保障(特に生活保護)などを学んだ。また、稲子宣子ゼミナールに属し、子どもの問題、女性の問題などを学び、卒業論文では「日本婦人労働運動史」をまとめた。サークルの先輩たちの殆どが地方公務員となり活躍していたこともあり、迷わず公務員試験を受けた。

 名古屋市職員となり、初めての職場は乳幼児施設で、私は児童指導員からスタートした。当時、名古屋市の施設では労働組合が中心となり、「夜勤体制の充実」に取り組み、私が就職した時の施設では2 . 5 :1の職員配置であった。しかし、子どもたちの養護体制は不十分で、「夜尿児の研究」や「子どもの社会性の発達、施設の子どもと家庭の子どもの比較研究」などに取り組み、養護内容の改善(子どもたちは 4年半同じユニット・同じ職員集団で養護する、5・6歳児の幼稚園通園の実現など)に取り組んだ。こういった実践や研究成果を研究会等で報告し、特に幼稚園通園は全国に広がっていった。

 児童指導員を4年間勤めた後、社会福祉事務所生活保護係の地区担当員に転勤となった。担当した地域は母子家庭、傷病多子家庭など子どものいる世帯が多く、その子どもたちの大半が中学校を卒業すると就職する状況であった。こういった現状に疑問を持った私は、同僚らの協力を得て「中卒後の子どもたちと高卒後の子どもたちの比較研究」を行い、職員会議で高卒の方が自立支援につながる結果を示し、「高校進学の勧め、給付型福祉奨学金の活用」などの啓発活動、高校進学率の向上に努めた。また、父や母が亡くなる「子ども世帯」に対しては、できる限り地域の資源を使い、施設入所でない在宅での支援を続けた。

 生活保護地区担当員を4年間勤めた後、念願かなって児童相談所・児童福祉司となった。当時、子どもの問題では、非行問題、いじめ・不登校問題、ネグレクト家庭など時代の変化とともに多様化していた。私は一つひとつの事例を丹念に記録し、名古屋市児童相談所・相談事例集に『A区における4年間の児童福祉司の実践−多様な相談援助を試みて−』をまとめている。また、学校からの講演依頼(教員向け、保護者向け)も多く引き受け、相談もそのたびに増えていった。10年間、児童福祉司を務め転勤の時期を迎えていたが、上司の勧めもあり心理判定員(現児童心理司)を希望し職種変更で同じ職場に残ることができた。しかし、臨床心理を学ぶために開業臨床心理士のスーパービジョンに3年間通い続けた。これまでの仕事と違い、行動観察、知能検査、性格検査、心理療法、などミクロな視点、児童福祉司や児童福祉施設、学校へのコンサルテーションなどの知識やスキルが広がっていった。阪神・淡路大震災への被災児支援、オウム真理教の施設にいた子どもへの支援、子ども虐待電話相談の開設準備と運営、などこの時期経験することになり、学びの連続であった。8年間心理判定員を務め、その後、全国的にも珍しい非行専任児童福祉司を7年間経験した。ここでは、警察、裁判所、弁護士、保護観察所など多様な機関・職種との連携を学び、「非行専任児童福祉司奮闘記」、「親子に役立つ非行相談援助法」などを雑誌に連載し、全国に発信し続けた。また、本学の夜間大学院(心理臨床専攻)で 2年間学び、臨床心理士の資格もこの時期に取得している。最後の3年間は児童虐待の増加で、名古屋市も2 つの児童相談所(準備期間を含む)に分かれ、名古屋市西部児童相談所で退職をしている。

実務家から教員になり

 2012年4月、縁あって本学の教員となった私は、1年目は大講義を6科目、延べ約1,700名の学生の授業を担当した(採点がとても大変であった)。教育歴がなかった私にとっては、「試行錯誤」の1年であった。また、大学の要請もあり「ソーシャルワーク実習指導担当教員」の資格・研修を受けた。ソーシャルワークを教えるため、2013年4月には社会福祉士の国家資格も取得した。私が学んだ社会福祉、ケースワーク論等は「古典」に属し、新しい社会福祉、ソーシャルワーク論の学び直しの日々であった。

 幸い、現場時代に学んだシステム理論、家族療法、短期療法、臨床心理学、精神医学等の知見は新しい社会福祉、ソーシャルワークの理論を学ぶ上で大きく役立った。

ソーシャルワーク専門実習の取り組み

 社会福祉系の大学が、専門学校と「差別化」を図り、4年制大学の特徴を活かして取り組み始めたのが、高い専門性や実践力が教育できる仕組み作りである。

 本学では、医療ソーシャルワーカー(MSW)、精神保健福祉士(PSW)の養成は、以前から存在していた。2年生から3年生までが社会福祉士養成(ジェネラリスト・ソーシャルワーク)、4年生ではスペシフィック・ソーシャルワーカー養成のためのカリキュラムが組まれている。2010年度から独自に設けたのがソーシャルワーク(SW)専門実習である。このSW専門実習では、3年生でソーシャルワーク実習を履修したうえで、相談援助や地域福祉についてさらに専門性を高めるために、4年生の前期(5・6月)10日間程度の実習を専門教員の指導のもとで行うものである。最初の2年間は、地域福祉分野と障がい児・者相談支援分野の2つのクラスが設けられていた。また、2011年度からスクールソーシャルワーク(SSW)演習・実習も実施されている。

 そして、私が赴任したあと、児童・家庭福祉分野のクラスが加わり、2013年度からは3つのクラスでSW専門実習が実施できることになった。実習先は自らが開拓し、市役所子育て支援課、子ども家庭支援センター、法律事務所、児童発達支援事業所、教 育・研 究 紹 介多機能型児童福祉施設など10か所以上あり、この5年間でSW専門実習を終えた学生は30名を超えている。SW専門実習を履修した実習生は、児童家庭福祉分野に興味・関心を持ち、卒業後はこの分野で実践したいと思っている学生たちである。3年生で履修するソーシャルワーク実習と違って、モチベーションが高いこと、学生自身で実習先や実習内容を選ぶことができること、卒業論文のテーマに引き付けた実習ができること、就職と結びつけることができること、などあげることができる。履修生の多くが、実習先に就職したり、市役所等に就職したりと、専門職教育に役立っている。

ゼミナール教育の取り組み

 社会福祉学部では、2017年度からの4専修(行政・子ども・医療・人間福祉)導入より、1年生では総合演習、2年生ではフィールド実践演習(旧基礎演習)、3・4年生では専門演習Ⅰ・Ⅱといったゼミナール教育を行っている。私は総合演習、基礎演習を担当した後、2015年度から専門演習(渡邊ゼミ)が持てるようになった。

 ここでは、4年目を迎える専門演習Ⅰ・Ⅱの取り組みを簡単に紹介したい。ゼミのテーマは、「子ども・家庭・地域を支える実践的ソーシャルワークを理解する」で、毎年20名を超えるエントリーがあり「個性豊かな」学生を中心に選抜している。ゼミは2年生の3月の春合宿から始まり、遊び、学び、楽しみ、実践できる基盤作りから導入している。3年生の前期ではテキスト学習(社会的な視点と心理的な視点の学び)、並行して学生一人ひとりの希望に沿ったボランティア、アルバイトなども紹介し、理論と実践が学べる仕組みを作っている。また、本学が推進しているCOC事業(地域課題解決型研究支援)にも2回応募して、学生たちと一緒に「ファミリーホームの地域支援」としてファミリーホームの子どもたちを学内に招き、グループワーク(流しそうめん、クリスマス会など)、宿泊支援(キャンプ)、訪問支援などにも取り組んでいる。2017年8月に実施したキャンプは地元の新聞にも取り上げられ、学生たちにとっては社会貢献を実感できる機会となった。3年生の後期にはソーシャルワーク実習を経験し、逞しくなって戻ってきた後から卒業論文のテーマを絞り情報収集を始め「卒業論文計画書」をまとめ、発表している。また、現場で活躍するソーシャルワーカーや弁護士などをゲストに招き、教員と違った学びの機会を提供している。

 4年生になると卒論のテーマに沿って、研究方法と研究倫理を学び、先行研究と情報収集を始める。大半の学生は量的研究、質的研究を基礎にデータを集めている。SW専門実習で調査をする学生が多いのも特徴である。並行して就職活動が始まる。この2年間は、地方公務員希望の学生が多く、「面接重視型」に試験内容が変わったこともあり、ゼミ生の2次面接対策も行い、毎年3・4名の学生が合格している。2017年度は社会的養護出身の学生2名が愛知県社会福祉職に合格し、「当事者から支援者」の誕生となる。就職活動と並行して、夏休み期間にはデータ収集が終わり9月、10月には卒業論文が完成する。11月初めには3・4年生合同ゼミで卒業論文発表会を実施し、3年生の投票で代表論文を決め、12月の合同クラスによる卒業論文発表会に臨んでいる。

 卒業論文の取り組みと並行して実施しているのが社会福祉士国家試験対策のゼミ内勉強会である。過去問題から始め、後半からは教員が用意した模擬試験を週2回のペースで取り組んでいる。1期生で4割のゼミ生が合格、2期生では5割以上の合格者を見込んでおり、2年間の総仕上げとなる。そして、国家試験を終えた2月上旬には卒業旅行を実施し、3月の卒業式を迎えている。

実務家への研修等の取り組み

 私は現場との接点を持つため、教員以外にもスクールカウンセラー(SC)として子ども、保護者、教員の支援を続けている。2016年度からは若手SCの指導や学校の緊急支援にも関わり続けている。また、教員の研修講師(教員免許更新研修会など)も務めている。

 さらに、2016年の児童福祉法改正を機に始まった児童相談所・児童福祉司現任研修等の講師(2017年度は5県からの依頼を受けている)も務めている。

 こういった取り組みをとおして、大学と現場をつなぎ、学生や卒業生が活躍しやすい基盤作りに努めている。

高校生・保護者たちへの発信

 私が学生時代は社会福祉を学ぶことができる大学は、全国で数か所しかなかった。そのため、本学には全国の高校からの入学生がいて、卒業後は全国各地で活躍している。しかし、最近では全国各地に社会福祉を学ぶことができる大学が増え、本学の受験生も減少傾向にある。

 そこで私が始めたのが高校の模擬授業、オープンキャンパス等での「学びの紹介」などである。このプログラムには、ゼミの学生、ゼミの卒業生を活用し、「ロールモデル」として高校生・保護者に向けた発信を行い、「魅力ある、入学したい大学」を紹介している。

おわりに

 2016年の児童福祉法大改正により、児童福祉の分野も大きな転換期を迎えている。「子どもの保護・福祉」から「子ども主体の福祉」への変化である。このような時期にあるからこそ、これまで述べたような児童福祉実践・教育が重要ではないかと考えている。また、児童福祉分野で活躍する卒業生たちの卒後教育(スーパービジョン)にも力を注ぎたいと思っている。

渡邊 忍 社会福祉学部教授

※2018年3月15日発行 日本福祉大学同窓会会報120号より転載

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