身近な話題が「ふくし」につながるWebマガジン

地域包括ケアと多職種連携

奈良県地域同窓会 公開講演会
「地域包括ケアと多職種連携」

講師:
藤井博之 社会福祉学部教授
日時:
2018年12月22日(土)

※所属や肩書は講演当時のものです。

1.はじめに

 多職種連携とはどことどこが連携するのでしょうか?そのイメージは、医療・介護・福祉の3分野で異なります。
 私は昨年、佐久総合病院で多職種連携の状況を評価するアンケートを実施したのですが、医師、看護師、事務系、診療技術系、理学・作業療法士、ソーシャルワーカーという職種によって得点が異なりました。つまり、職種によって自分の職場の連携がうまくいっているかどうかの評価が異なる可能性があります。

藤井1.png

藤井博之,斉藤雅茂「医療機関における多職種連携の状況を評価する尺度の開発」厚生の指揮、厚生労働統計協会、第65巻第8号より作成

藤井2.png

藤井博之,斉藤雅茂「医療機関における多職種連携の状況を評価する尺度の開発」厚生の指揮、厚生労働統計協会、第65巻第8号より作成

 次に職場ごとの得点に注目すると、事務系が最も高く、在宅ケアや慢性期病棟が低くて、急性期病棟やICUなどがかなり高い結果でした。老健でむしろ急性期病棟に近いのは、興味深い点です。(藤井,斉藤2018)
 ただしこれは、各職場の連携の状況そのものだけでなく、各回答者が連携について評価する際の「物差し」との相互関係を反映しています。例えば、急性期で慢性期よりも高い得点が出ているのは、急性期病棟と慢性期病棟や在宅ケアで、チームワークの在り方が異なること、そこにいる職員のもつ評価の「物差し」が異なっていることの表れだと考えています。

 いずれにしても、現場で働く人々がうまく連携できていると思って仕事をすることは、大事な課題です。そのために何をしたらいいかを考えてみたいと思います。

2.キーワードになった"多職種連携"

「地域包括ケアシステム」という言葉は、2013年の社会保障改革プログラム法で初めて明文化されました。その中には、高齢者・医療政策だけでなく、障害者、子育て支援、生活困窮者支援も組み込んで、本当に地域包括的なシステムを作るべきだという意見もあります。ただ、現時点では介護保険や高齢者支援以外の分野ではまだ法律化されていないので、これからどう進んでいくのかは注目点の一つです。

藤井3.jpg

 もう一つの注目点は、地域医療構想です。各都道府県単位で定めて複数の市町村で構成される二次医療圏に下ろし、医療圏ごとの構想を定める制度です。地域包括ケアは中学校圏域単位とされていますが、各市町村はその全体を見る立場にあります。ですから、市町村のレベルでは両者がオーバーラップして検討されています。地域包括ケアと地域医療構想をどうつなぐのかが課題になってきているはずです。

 さて、その中で多職種連携が鍵になるとされています。例えば診療報酬・介護報酬は、2006年から多職種が連携すると加算されるようになりました。今年は診療報酬と介護報酬の同時改定の年でしたが、初めて介護報酬にも連携を条件にした加算が取り入れられました。もう一つの例が在宅医療・介護連携推進事業です。この最初は2011年の連携拠点事業で、先進的に在宅医療・介護連携を進めている全国10地域に連携拠点の補助金が交付され、翌年には全国105カ所に増えました。必須のタスクとして課題の抽出、連携のための研修、人材育成などに対して補助金が付きました。
 2016年には全国の市町村が行うべき事業になり、補助金事業ではなくなりました。主管する部門は各市町村で決めます。在宅医療と在宅介護の連携を推進する多職種研修や、多職種連携で運営される会議体を動かすことを意味しています。これも多職種連携を推進するための大きな政策的動きといえます。(藤井2018a)

3.何のため? 誰のため?

そもそも多職種連携は、何のため、誰のために必要なのでしょうか?
 多職種連携を推進する背景には、「医師不足、看護師不足、医療崩壊などがある」とよく言われます。多職種連携で医師や看護師の負担を減らし、医師や看護師があまりくたびれ過ぎないようにするのがチーム医療だという言い方です。あるいは、少子高齢社会における財源や資源を節約するためということです。社会保障費用を抑えるために多職種連携をすれば無駄が減るという文脈で、推進を主張する研究者も2000年代半ばごろまでいました。

藤井4.jpg

 しかし、連携すればマンパワー不足を補えるのでしょうか。医師でなければしてはいけないことを減らし、看護師や薬剤師に権限を委譲するのは、医師の給料が高い事を考えると財源の節約にはなるかもしれません。しかし、それは多職種連携としてはごく初歩的な段階です。  多職種連携が進むと、コミュニケーションの活性化が必要となり、そのための時間・機会コストは増えます。財源やマンパワーの不足を補うことには直結しません。多職種連携を進めるにはコストがかかるのです。かけないで進めようとすれば、どこかに必ずひずみが出ます。そうではなく、多職種連携を進めることによって質的な効果を得ることが大事です。(藤井2018a)

 多職種連携が必要になった背景には4点が挙げられます。一つ目は、医療が急性疾患中心から慢性疾患中心に変わってきたことです。普段の生活をどう支えていくかが重要になり、多職種での連携した支援が必要になります。二つ目に、病気以外にいろいろな問題を抱える人が増えたことです。入院する人の話を聞くと、病気の背景に家族の中でのアルコールや失業、家庭内の問題など、多くの患者が多重問題を抱えているようです。当然いろいろな機関や専門職が関わる必要が生じています。うまく調整しないと支援が進まなくなっています。三つ目に、対人援助の技術・組織・制度が複雑化しています。専門職制度の新設、専門分化、介護保険をはじめ制度の新設などです。四つ目に、世の中に軋轢や葛藤が増えていることもあると考えています。

 つまり、多職種連携を求める課題は高齢化だけではないのです。社会保障費用の拡大を何とかするためという議論はそもそも出発点が違うと思います。
 有名な、イギリスで2000年に起こったVictoria Climbie事件では、いろいろな機関が関わっていたにもかかわらず、8歳女児の虐待死を防げませんでした。それが一つのきっかけになり、イギリスでは2006年、保健医療福祉の専門職団体の資格要件に多職種連携教育を実施することが制度化されました。日本でも子どもの虐待死の報道が多いですが、専門職機関の連携は、相変わらず進んでいないように思います。

 私は回復期リハ病棟で仕事をしていたことがあります。例えば、昼食時間に患者を見守る場面があります。この時、各職種が何に注目しているかは、「誤嚥しないか」「テーブルと椅子の高さは合っているか」「食器が上手く使えているか」「美味しく楽しく食べているか」「充分な栄養になるだけ食べているか」など、異なります。どれも重要で、それらが全てうまく組み合わさることでいい食事になり、病気が回復に向かうのです。視点の違いをどうやってプラスにしていくのかが、医療における多職種連携の課題の一つになります。(保健医療福祉キーワード研究会2008)
 患者側から見ると、急性期から回復期、普段の生活に戻るなど、時期によって、自分を見てくれるスタッフの職種構成や職種間の関係性が変わります。患者はいろいろなチーム間を動き、そのたびに新しいチームと関係を築く事が求められます。援助者側からすると、新たなケースを受け持つたびに新しいチームが結成され、チームの結成と解散を日々繰り返しています。
 時にチームはぶつかります。例えばリハビリテーションのカンファレンスで、理学療法士が「この患者さんは歩行訓練がうまくなったので、トイレ歩行を自立にします」と言うことがあります。しかし、病棟の看護師やケアワーカーから見ると、例えば夜のトイレではふらつきも大きいし、人でもないので、転倒の危険が高いことが問題になります。もう少し複雑なアセスメントをしていて、理学療法士の評価どおりにはいきません。このように、小さな衝突はたくさん起こります。チームにはいろいろな阻害要因があるのです。専門領域の間に、どちらも手を出せないような裂け目が生じたり、力の出し惜しみをしたり、専門職が互いに制約し合ったり、専門職間で衝突が起こったり、多数が少数を支配する圧政が生じたりします。それから、各職種による異文化交流なので、使っている言葉が違います。
 どんなふうに連携するのかは、援助を必要とするご本人の生活上の文脈に依存します。同じ人を取り巻くチームでも、病気の状態や生活課題が変化すればチームの在り方が変化するのは当然です。そして、専門職として仕事ができていない、あるいはほかの職種の仕事と時間や場所の取り合いになるなど、援助者同士が、互いの仕事をする上で制約条件になることもあります。

 こうした現実の一方で、一番大事なことは、多職種連携によって、今まで支援し切れなかった援助課題を支援できる場合があることです。例えば自由自在な連携を組めるようになる、つまり、支援課題が変化することに対応して、チーム構成やチーム内の役割を変化させて柔軟な援助ができます。それによって、開かれた専門職、専門性や技術からいい意味で解放された援助者を育みます。専門職の仕事の範囲はオーバーラップしていますから、お互いに肩代わりできることもあります。さらに、援助に社会性をもたらします。患者が病気以外のことで悩んでいることをちゃんと想像できるかということです。その上で自分の専門性を鍛えられるという効果もあります。複雑な背景をもつケースを、その複雑さを大切にしながら援助する可能性が出てくるのです。

4.多職種連携に必要なこと

 多職種連携を決定する要因には、システム要因と組織要因と関係性要因があるといわれています。それを踏まえて、私が行った専門職への聞き取り調査では、患者のニーズと技術の変化を影響すると考えられました。この場合の技術には、医療技術やIT、情報通信技術などが含まれます。(藤井2019)

藤井5.png

藤井博之,斉藤雅茂「医療機関における多職種連携の状況を評価する尺度の開発」厚生の指揮、厚生労働統計協会、第65巻第8号 P22-28

 技術の進歩の例を挙げます。最近、内視鏡手術や腹腔鏡手術が広まっています。手術室のモニターに映る術野で手術が進むということは、それまで術者が独占していた術野を、助手、麻酔医、看護師が同じ術野を見ることになります。場合によっては海の向こうの専門医も光ファイバーで同じ術野を見て、口を出すこともできるわけです。これが手術における多職種連携の在り方をどう変えるのかはまだ分かりませんが、可能性は大いにあると思います。

5.多職種連携の課題、視点、方法

 多職種連携を構築する上で影響することに、個人の要素と場の要素があります。個人の連携能力が卓越してさえいれば連携がうまくいくわけではありません。だからこそ連携に関係性要因があるといわれるわけです。専門職の養成課程の中で多職種連携について教育することは可能ですが、それだけでは、よい多職種連携を構築できるとは限らないということです。では他に何が必要なのでしょうか。

藤井5.jpg

 多職種連携は英語でinterprofessional collaborationといわれ、多職種連携教育/学習をinterprofessional education/learning(IPE/IPL)といいますが、interというのはinteractive(双方向)から来ています。professionalがinteractiveに情報や意見や影響を及ぼし合う教育方法をIPEといいます。つまり「連携とはこうあるべきだ」と教えることが多職種連携教育だというよくありがちな考え方は、IPEではありません。双方向の連携を誘発する場を体験する教育手法がIPEなのです。
 IPE/IPLの論点として、卒前教育でやるか現任教育でやるかがあります。一人前になる前の新人や若手が「連携が大事だ」と言って、多職種連携への理解が浅いベテランがカチンと来ることがあります。卒前と現任の両方で進めていかなければなりません。日福大の卒前教育でもIPEが少しずつ増えていますが、現任教育、地域福祉や地域医療の分野で貢献することも、大学の大事な仕事です。
 また、連携能力すなわち連携に関する基礎的なスキルや考え方、態度を教育目標に置くIPEには限界があります。教育効果をどう評価するかもIPE研究の論点で、まだ結論が出ていません。

 いま一番の問題だと思うのは、教育する側の連携が欠如していることです。日福大でも、8学部が合わさった多職種連携教育を開発していますが、各学部が厚労省と文科省から二重支配を受けている等の事情もあって、プログラムを作るのは本当に大変です。学長が重点課題に位置づけていることで、何とかプロジェクトが支えてられている面もあります。国際的にも、各職種の利害関係を越えて、社会に必要だからやろうというふうに、トップが旗を振ることが欠かせないというのが、IPEに関する研究の到達点です。学生むけのIPEを実施する前に、教員や職能団体の幹部にIPEを実施するのが、本当は先なのです。
 こう考えると、現任教育は本当に大事だと思います。佐久病院での私の調査ではoff the Job trainingの重要性が示唆されていました。病院祭やサークル活動、読書会など、仕事以外で交流することが、実は職場の連携の下地を作っている面があります。(藤井2018b)

  多職種連携を進めていく上で、私たちは四つの共通理解モデルをつくることが大事だと考えています。一つ目は、自己理解です。自分が専門職として、何を対象にして、どういう技術があって、何に価値を置いているのかをまずは自覚することです。二つ目は、当事者理解です。チームが支援するケースについて共通理解をつくる。そのためのツールの一つが国際生活機能分類(ICF)です。職種を越えて当事者を理解するための共通の見方が大事だと思います。三つ目は、他者理解(相互理解)です。これがまさにIPE/IPLの課題で、他者を理解しながら関係性をつくることが必要です。四つ目は、状況理解です。当事者と支援チームがやるべきことができるかどうかを、チームのおかれた内外の状況にも規定されます。例えば、経営状態や景気、制度などの状況の理解を共通化する必要があります。この四つの共通理解をつくることは、多職種連携を有効に機能させる上で避けて通れません。多職種連携教育でできることはその一部にすぎないのです。(藤井2018a)

 医療・介護事業は多職種連携があってこそ進んでいくのは間違いないと思います。政策で推進されるのは必然です。特に専門職が一緒に動くことについては、トップが全体にむけて発信する必要があります。また、多職種会議の運営方法に注目する必要があります。会議が全てではありませんが、会議にはいろいろなことが反映されるのも事実です。運営方法の改善は大事だと思います。さらに、最近増えている多職種職場、病院の地域医療連携室など、同じ仕事をするタスクチームの中で、職種間の権限と責任がどのように扱われているかが、マネジメントのポイントになると考えます。

 教育機関がIPEを行い、多職種連携について体験的に学んだ人たちを現場に送り出すことは意義があります。しかしそれは、社会全体で広く、現任教育と同時並行で進められなければなりません。また、IPEを行うには教員や教育機関、保健医療福祉事業の管理者向けのIPEを行うことが決定的に重要です。本学もまだこれらの点で苦労しています。私も含め担当する教職員が、各学部の事情、学生と教職員の生活や教育のサイクルを十分知った上でプログラム開発するスキルが、まだまだ足りません。そこを今、取り組んでいるところです。

文献

  • 藤井博之,斉藤雅茂(2018)「医療機関における多職種連携の状況を評価する尺度の開発」厚生の指揮,厚生労働統計協会,第65巻第8号 pp22-28
  • 藤井博之編著(2018a)「InterProfessionalの基本と原則(ラーニングシリーズIP第1巻)」協同医書
  • 藤井博之(2018b)「病院における多職種研修の現状分析」日本農村医学会雑誌, 日本農村医学会, 第67巻第1号pp52-57
  • 藤井博之(2019)「地域医療と多職種連携」勁草書房(2019年5月刊行予定)
  • 保健医療福祉キーワード研究会(2008)「保健医療福祉のくせものキーワード事典」医学書院

藤井 博之 社会福祉学部教授

※この講演録は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

pagetop