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ソーシャルワーカーはいかにしてソーシャルワーカーになるか

研究紹介
「ソーシャルワーカーはいかにしてソーシャルワーカーになるか」

大谷 京子 社会福祉学部准教授

※所属や肩書は発行当時のものです。

はじめに

 高校生の時にPSWを志し、修士課程の間も含めて10年間、共同作業所、精神科病院と地域生活支援センターで実践に携わりました。毎日腸がよじれるほど笑いましたし、頭から湯気がでるほど怒りましたし、いろいろな種類の涙を流しました。その経験、多くは怒りの中に、探求したいテーマが山ほどありました。現場で踏みとどまることができず、それでもソーシャルワーカーでいたい私が、現場で感じてきた疑問に対する答えを見つけるために行った研究は大きく3つあります。

ソーシャルワーク関係

 最大のテーマは、「理想のソーシャルワーク実践とはどのようなものか」でした。実践現場では何をやっても賛否両論でした。当事者が満足していても、地域が変わってきたと関係者は実感していても、周囲の理解が得られないこともままありました。何が正しくて何は間違いなのか、そんな単純なことにさえ明解な答えがない現状にジリジリし、評価尺度が欲しいと思っていました。

 そこでまず当事者に、フォーカスグループインタビューという方法で「どのようなソーシャルワーカーが理想か」を聴きました。そしてエキスパートインタビューを実施し、ベテランPSWがどのような実践を遂行しているのか明らかにしました。それらから、実践を支える要素として、PSWが自分の役割や立ち位置をどのように考えるかという「自己規定」と、PSWがクライエント※注をどのように捉えるかという「対象者観」、PSWとクライエントとの「関係性」が浮き彫りになりました。

 次にそれらについて評価指標を作成し、「自己規定」と「対象者観」が「関係性」と関連し、「関係性」と「実践」が大きく関連することを量的調査で検証しました。「関係性が大切」というのは、学生時代から当然のこととして知ってはいましたが、「どのような関係」を何に意識して形成するのかを描写できました。「信頼関係」にも多様な要素が含まれること(たとえば、クライエントからPSWの正しい知識と技術に対する信頼を得ることから、PSWの誠実さも含めた人間性に対する信頼を得ること、さらにはPSWがクライエントの可能性や力を信頼することまで、方向性も信頼の内容も多岐にわたります)、常に一定の正しい関係性があるわけではないこと、「自己規定」と「対象者観」と一貫した「関係性」を柔軟に変容させることが求められることなどが明らかになりました。関係性はPSW側の認識に関連すると検証されたのには驚きました。関係性がうまくつくれないことについて、PSWはクライエントの症状や属性で言い訳ができなくなりました。

 「クライエントとの関りから学んでいる」と体感していましたが、実際に、「関係性」が「自己規定」と「対象者観」に関連していることも明らかになりました。坪上先生がおっしゃった「ワーカーとクライエントとの援助関係の結果として、ワーカーもクライエントも変わる」(1984)という循環的援助関係を示唆していると感じています。PSWは、関係性を構成する要素であり、影響し影響される存在です。変化し続ける自らを省察することの重要性が、調査を通して示されたと思います。

 この調査を通して、実践力には経験年数4年と9年の壁があることや、自己認識については所属機関や出身校による差があることなどが明らかになりました。そうすると、経験年数別、所属機関別の実践力達成課題があり、それぞれのポイントに合わせた研修プログラムが必要だと感じるようになりました。

ソーシャルワークアセスメント

 ソーシャルワーク実践の要はアセスメント力です。先の研究で、経験年数による差が明らかになっていましたので、経験年数4年未満のPSWがアセスメントプロセスの何につまずき、どこまでできているのかをまず明らかにしました。初任者の特徴として、希望やストレングスよりも、病理・欠損モデルに基づいて「クライエントは何ができないか」「何が問題か」を探る面接を展開すること、直線的因果関係を探しがちであること、偏見による立ち入らない忌避ラインを設定する(「傷つけるかもしれないので、症状/障害/家族のことには踏み込まない」「恋愛関係については、転移に発展するといけないので聞かない」など)ことなどが明らかになりました。

 クライエントとその周囲の環境を、PSWとクライエント双方が理解を共有することを目指すアセスメントプロセスは、面接場面であれば言語のやり取りはあるものの、理解は頭の中で行われる認識です。これが、アセスメントスキルの明示しにくさ、したがって伝達しにくさの理由でもあります。そこで、PSW側の頭の中で行うプロセスを図示するために、先の初任者調査につづいて、ベテランPSWには、アセスメント場面のロールプレイをしていただく調査を実施し、そのスキルを抽出しました。「情報収集」→「情報分析」→「判断」→「伝達」→「アセスメント結果の作成/共有」というプロセスがあり、それぞれの段階で活用されるスキルが明らかになりました。これまであまり語られてこなかった、「アセスメント票に囚われない」「語られなかった言葉を情報源にする」「あえて尋ねない」といったスキルも抽出することができ、ライブで発揮されるしなやかなソーシャルワークスキルにうならされました。

 これらのスキルが明確になりましたので、自分で自らのアセスメントスキルを評価できるチェックシートを開発しました。このチェックシートに回答すると、スキルの得点が算出でき、各自の実践の検証と今後の課題を確認するために活用できると期待しています。

 また調査によって、先輩ワーカーの存在も、スーパービジョンも、いろいろな専門職研修も、アセスメントスキル向上には大きく関連がないことが明らかになりました。そこで、これらのスキルを身に着けるための研修プログラムも開発しました。そのために、「PSW塾」と称してアセスメントスキルに特化した研修を試行しました。参加者からプログラムについての意見を聴取し、参加者のスキル向上について測定し、プログラムを改良しました。さらにいろいろな機会で、試行→実施→改良を繰り返し、研修プログラムを完成させました。これはMSW協会や、多領域対人援助職研修などでも実施し、分野横断的に活用できるものになっていると感じています。

専門的価値成長プロセス

 表面的な面接技術や情報分析技術の不足もありますが、初任者PSWは、専門職価値に基づかない、あるいは反する実践をしていることがありました。ソーシャルワーカーの専門性の礎に専門的価値があるならば、その醸成・成長を促進しなければならないと考えました。

 しかしそもそも可視化の難しい「専門的価値」を学部教育の中でいかに醸成するのかも大問題だと感じました。それが成長するものなのか、成長するなら「高度な(?)価値観」と「低度な(?)価値観」というように、価値観にもレベルがあるのか、それが専門職アイデンティティといかに関連するのか、まだまだ先行研究の海を漂流している段階です。

 現在、14名(4大学/専門学校出身)に依頼し、経年インタビュー調査を実施しています。3年間でいかに認識が成長するのかを追いかけようと思っています。またベテランにも、これまでのキャリアの中で価値観を醸成してきた要因を振り返っていただくインタビューを実施しています。これらの結果を合わせて、専門職価値観を醸成するヒントを得られればと期待しています。そして、専門性の高いソーシャルワーカーを輩出するための一助となればと考えています。

おわりに

 日本福祉大学に赴任して10年が経ちました。「同僚」と呼ぶには恐れ多いすばらしい研究者、教育者と、可能性あふれる学生に囲まれているこの恵まれた環境に感謝しています。実践で活用できる成果を生む研究を、これからも目指していきたいと思います。

※注 クライエントという呼称や、「対象者」という位置づけへの疑義について賛同するところもあります。ただしPSWに焦点を合わせた本研究では、実践のパートナーになる可能性を認識しつつも、二者関係を形成する相手という意味でPSWとの対比を明示するために使用しました。
※引用文献 坪上宏(1984)「援助関係論」仲村優一・小松源助編『講座社会福祉5 社会福祉実践の方法と技術』有斐閣,80-117.

大谷 京子 社会福祉学部准教授

※2016年8月15日発行 日本福祉大学同窓会会報117号より転載

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