近年、日本に在留するベトナム人の数は急速に増加している。法務省の統計によれば、2012年末には日本に住むベトナム人は5万2367人で、在留外国人全体の2.6%に過ぎなかったが、12年後の24年末には63万4361人と10倍以上に増え、全体の16.8%を占めるまでになっている。在留資格別に見ると、「技能実習」「特定技能」「技術・人文知識・国際業務」など、労働に関わる資格が7割以上を占めており、少子高齢化が進む日本社会において、ベトナム人が労働力として重要な役割を果たしていることが窺える。
本学にも多くのベトナム人留学生が在籍しており、その多くが日本での就職を希望している。彼らに日本語のどの点が難しいかを尋ねると、「おじさん」と「おじいさん」のような語を発音し分けることが難しいと口をそろえる。日本語母語話者にとっては単なる「音を伸ばす・伸ばさない」の違いに思えるが、ベトナム語にはこの長短の対立がないため、日本語の音の長さを区別して発音することは大きな課題となる。とはいえ、職場でのコミュニケーションにおいて発音の誤りが誤解や業務の支障を招く可能性もあるため、学生のうちに克服することが望ましい。
筆者は有効な指導法を見出すことを目的に、どのような発音が母語話者に聞き誤られるのかを研究している。調査の結果、「おじさん」を「おじいさん」とする聞き誤りなどは、単に母音長の制御だけではなく、アクセントの誤りも関与していることが明らかになった。日本語は高低アクセントの言語であり、「箸」(高低)と「橋」(低高)のように音の高低の配置によって単語の意味が区別される。この配置には規則がなく社会慣習的に決まっているため、学習者は一語一語覚えなければならない。新しい語を覚える際にアクセントも学ぶのが理想だが、これに対応できる教材は未だ少なく、音声指導自体も文法や漢字教育に比べて軽視されがちであるため、多くの学習者はアクセントの重要性に気づかないまま学習を進め、誤りに気づきにくい。結果として、彼らが「音を伸ばさなかったせいで通じなかった」と考えていた発話が、実際にはアクセントの誤りによるものである場合も少なくないようだ。
国際学部 田中真由美助教
※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2025年11月06日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。