身近な話題が「ふくし」につながるWebマガジン

コロナ特例貸付利用世帯の経済状況

低所得世帯家計の脆弱性と支援のあり方

 新型コロナウイルス感染症拡大を受けて2020年3月からスタートした生活福祉資金貸付の特例貸付(コロナ特例貸付)は、2022年9月末で終了した。生活福祉資金貸付とは、社会福祉協議会が実施する、主に低所得者を対象とした公的貸付制度である。このコロナ特例貸付の貸付件数は最終的には381万件、貸付金額は1兆4447億円にも達した。コロナ禍において生活保護支給がほとんど増加しなかったのは、よくもわるくも、この公的貸付制度が生活に困窮する世帯に広く浸透したからである。

 コロナ特例貸付の借受人の生活状態について、全国社会福祉協議会の報告書がその実態を明らかにしている(『コロナ特例貸付からみえる生活困窮者支援のあり方に関する検討会報告書』)。それによれば、コロナ特例貸付借受人の月収はコロナ禍で大きく落ち込んでいる。借受人のコロナ前の収入は月収20万円以上の世帯が62.7%であったが、コロナ禍では20万未満になった世帯が88.8%を占めている。また収入減少幅については10万円以上減少したとする者の割合が65%にのぼっている。借受人の職業については、パート・アルバイト、契約社員・派遣社員、自営業者などが多い。正社員の労働者と比して、比較的毎月の月収が安定していない職業の者が多いのである。こうした状況から、実際に貸付業務を担当した都道府県社会福祉協議会からは「コロナ禍以前から生活困窮状態の人が多い」「雇用がもともと不安定な状態の人が多い」といった指摘も多くなされている。

 コロナ禍で明らかになったのは、収入が不安定な世帯の多さと、そうした世帯の家計の、不況や経済危機に対する脆弱(ぜいじゃく)性である。筆者たちがコロナ前の2018年から2019年にかけて実施した調査では、以下のことが明らかになっている。すなわち、年間平均では収入が一定規模あったとしても毎月の収入が不安定であるために、日々の資金繰りのコントロールに難儀していたり、急な支出や急な収入の途絶のような金銭的ショックの吸収力に欠けたりする世帯が少なくないことである。そして、資金繰りのコントロール困難や金銭的ショックの吸収力の欠如により、それらが原因で深刻な生活困窮に帰結する世帯も少なくないことである。低所得世帯の生活困難は、単に収入が低いだけではなく、その収入が不安定であることが原因になっている。

 不安定な収入を平準化するような、低所得者であっても利用しやすい金融サービスは必要不可欠であり、今回のコロナ特例貸付がそうした平準化に寄与した面はあったと考えられる。そうは言っても、収入が落ち込む期間が短期間に収まらなければ、そうした収入源を借入で補うことは、低所得者世帯の家計を一層苦しめることになりかねない。収入の安定化に貢献し、収入が落ち込んでも深刻な生活困窮に陥らなくても済むような、社会保障制度が必要である、たとえば生活保護給付における資産要件の緩和や、一定の所得以下の者に現金給付を実施する給付付き税額控除制度が考えられる。また、現行の住居確保給付金の対象世帯と対象期間を拡大した住宅手当制度の創設も必要であろう。このような低所得者向けの給付制度の拡充が望まれる。

角崎 洋平 社会福祉学部准教授

角崎 洋平 社会福祉学部准教授

角崎 洋平 社会福祉学部准教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2023年10月18日)欄に掲載されたものです。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

pagetop